「奇跡の学校 Rochester School 訪問記②」 WGI国際カンファレンス2018

奇跡の学校 Rochester School 訪問記②


前回のRochester School訪問記で、Rochester Schoolが素晴らしい実績を創り出していることをお伝えしました。今回の記事からは、その具体的な取り組みについてご紹介していきます!
訪問記 第二弾では、Rochester Schoolの先生の指導方法や教育ツール、学習環境の紹介を通して、どのように選択理論心理学を応用して成果を創っているのかについてお伝えします。

生徒に教える上で、先生が大切にしていること

Rochester Schoolは選択理論心理学を基にしたクオリティスクールです。つまり、生徒に何かを強制して教えることや、価値観を押し付けることはせず、内発的動機付けを大切にしながら教育をしています。それを最も象徴しているのは、やはり先生の指導方法です。

Rochester Schoolの先生2名に「生徒に教えるにあたって、最も意識していることは何ですか?」という質問をしたところ、2名とも「生徒の5つの基本的欲求(Basic Needs)を意識して指導しています」と答えました。
5つの基本的欲求(Basic Needs)とは、選択理論心理学の基本概念の一つです。これによると、人は誰しも「生存」「愛・所属」「力」「自由」「楽しみ」という5つの欲求を持っており、これを満たすために様々な行動をしています。また、5つの基本的欲求は全員が持っていますが、人によって欲求の強さと欲求の満たし方が異なります。この違いが「個性」を生み出しています。

つまり、先生は生徒一人ひとりの欲求の強さと満たし方の理解に努めており、決して先生の正しさを押し付けるのではなく、本人の意思や選択を尊重した指導をしています。
その指導を受けた生徒たちは「この先生は自分たちのことをよく分かってくれている!」と感じ、先生のことが好きになります。また、それだけではなく、生徒一人ひとりに合った教え方ができるため、生徒は勉強も好きになれるのです。

本人の意思や選択を尊重している指導方法を表す他の事例として、教室や授業でのグラウンドルールの設定があります。グラウンドルールとは、グループメンバー全員で前提にするルールをいくつか決めて、それに沿って発言や行動をするという方法です。たとえば「仲間の意見を否定しない」や「学んだことを仲間にシェアする」といったルールを決めます。
Rochester Schoolでは、なんと幼稚園のクラスからグラウンドルールを話し合って決めるそうです!一番のポイントは、グラウンドルールは先生が決めるのではなく、生徒たちが話し合って決めるということです。先生はあくまでファシリテーター(促進者)として関わります。こういった教育を通して、小さい頃から「自分たちで決める」という主体性を育んでいるのです。

※問いかけや話し合いを通して、生徒と一緒に授業を創っていく

小さい時から「人間の行動メカニズム」について学ぶ

Rochester Schoolでは「カラーチャート」と呼ばれる図が、校内に掲示されていたり、生徒に教えるツールとして使用されていたりします。
「カラーチャート」とは、選択理論心理学の考え方を一つの図としてまとめているもので、「人間の行動メカニズムを説明した図」です。人間がどのように現実世界を知覚し、脳の中でどのような反応を経て、様々な行動を選択するのか。上述の5つの基本的欲求も含めた、人間の行動メカニズムを体系的に理解する上で重要な知識です。
日本では一般的に、成人してからこういった人間の行動メカニズムについて学んでいる中、Rochester Schoolの生徒たちは中学生の時からすでに学んでいるのです!
校内の至るところに、生徒がカラーチャートを理解し、覚えるために書いた図が貼られています。

※生徒たちがカラーチャートを覚えるために書いた図

生徒はカラーチャートを勉強することでどんな価値を得ているのでしょうか?
実際にRochester Schoolを卒業して、現在は大学に通っている生徒たちにもインタビューをして聞いてみました。

「自分の選択は、他の誰かではなく自分に最も責任があるのだということが分かり、被害者にならなくなった」
「何かを選択する時に『今、自分がしようとしている選択は自分の求めているものに対して効果的か?』と問いかけるようになって人生の質が変わった」
「自分が幸福感を味わっているとき、逆に不幸感を味わっているとき、どの欲求が満たされていて、どの欲求が満たされていないのかが分かるようになって、セルフコントロールが出来るようになった」

まさに今回のWGI国際カンファレンスの中心テーマでもあり、選択理論心理学の最重要テーマとも言える「自分の人生の舵を自分で取ること(Take Charge of Your Life)」を学んでいるのです!

※卒業生たちはカラーチャートを説明することができる

生徒が主体的に学ぶことのできる環境設計

Rochester Schoolがこだわっているのは、指導方法や教育ツールだけではありません。学習環境にもこだわって設計をしています。

生徒が学ぶ教室は、学びに集中できるように様々な工夫がされています。
壁は防音になっており、部屋の温度や明るさも常に調整されています。しかし、Rochester Schoolで最も特徴的なのは、ほとんどの部屋の机の配置が「円形」であることです。これは選択理論心理学の考え方の一つである「共同学習」の概念に基づいた環境設計です。

※子供用の図書館の様子

※教室の様子

「円形」には大きく二つの目的があるそうです。
一つ目の目的は、生徒同士はお互いに上下関係はなく、フラットな関係であるということを意識してもらい、良好な人間関係を築いてもらうこと。
二つ目の目的は、生徒同士がお互いに目を合わせてコミュニケーションする量を増やすこと。
いわゆるスクール形式の学習環境では、先生からの一方的な知識のインプットが多くなり、学習者同士のコミュニケーションは少なくなるのに対して、島形式(円形)の学習環境であれば、上記のように共同学習、相互尊重、双方向コミュニケーションが活発になり、学習の質が飛躍的に高まるのです。

Rochester Schoolの成功の秘訣

このようにRochester Schoolでは指導方法、教育ツール、学習環境、すべてにおいて選択理論心理学をベースにした、内発的動機付けの教育が徹底されています。これだけのこだわりを持った教育をしていれば、素晴らしい結果が生まれるのも頷けます。

しかし、当然、こういった方法論や仕組みも大切なのですが、最も大切なことは他にあるとRochester Schoolの先生たちはおっしゃいます。
私たちがインタビューの最後に「Rochester Schoolが成功している秘訣は何ですか?」と尋ねたところ、次のように答えていました。

「成功している一番のポイントは、私たち先生が生徒のことをよく理解しているということです。生徒は本当に様々なバックグラウンドの子たちがいます。たとえば、事情があって親と離れて暮らしている生徒がいれば、私たちはその子の親代わりになります。そんな風に、一人ひとりの生徒を理解する姿勢が一番大切なことだと思います」

選択理論心理学を応用した指導方法やツール、環境設計など、ハード面の特徴に目が行きがちですが、本当に大切なのは「生徒を一人の人として尊重する」というソフト面の想いなのかもしれません。

以上が今回のレポート記事です。学校教育だけでなく、様々な場面で活かすことのできる内容だったかと思います。
次回レポート記事では、生徒の親と学校の先生がどのように協力し合っているのか、選択理論を学んだことで親と子がどのように変化したのかについてお伝えします!
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用語紹介

精神病
グラッサー博士は、いわゆる精神病というものは存在しないと主張している。現代の精神科は、脳内物質の異常などに精神病の原因を求め、薬で治療しようとするが、グラッサー博士はこのやり方に対し警告している。薬の副作用は危険なものであるし、いくら薬を投与しても、根本的な原因である欲求の不満足を解決しなくては意味...
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